産業精神医学ならびに宇宙航空精神医学とは、環境保健学に包括される産業医学ならびに宇宙医学の分野において、下記手順によって構成される精神医学に関連する問題にフォーカスした包括的環境リスクマネジメントの学問領域であり、近年の予防医学において非常に重要な学問となってきています。近年は職場におけるうつ病の増加、宇宙空間における長期滞在の実現からその社会的ニーズが高まっている背景があり、これまでの職場における重金属中毒や公害などの問題や宇宙空間における無重力の身体影響などの問題に加えて、今後その科学的検討がますます必要になってきている分野です。
定性的リスク評価(疫学手法)
定量的リスク評価(動物モデル実験)
現場でのリスク管理システムの策定と運用
当研究グループのこれまでの研究は、これに従い3つの領域に分担・連携して包括的に実施されてきています。
(具体的業績は、よろしければぜひ研究業績をご参照下さい。)
1. 職域における精神医学に関連する様々な問題を疫学的手法によって検討。
a. 筑波研究学園都市における知的労働者の生活環境・ストレス調査
b. 職場におけるストレス対処力向上のための研修手法の開発
c. 復職支援のリワークプログラム効果検討の研究
d. 復職支援にソーシャルファーム活用の研究
e. 復職支援にネイチャーベーストリハビリテーション活用の研究
f. いのちの電話の相談傾向分析による自殺志向者の実態調査
g. 宇宙飛行士の特殊閉鎖環境におけるストレス反応を定量する手法の開発
h. 過重労働と身体的許容限界に関する研究(研修医全国調査、当直医調査)
2. 職域における有害影響因子(温熱・振動・心理ストレス)に関連する様々な問題を、実験的手法で解析。
a. 中枢神経系におけるペプチド系ストレス応答機構の解明(CRH, Orexin)
b. 振動ストレス・温熱ストレスに対するオピオイドペプチドの応答機構
3. 地域行政・民間と連携した、労働衛生管理システムの構築と運用研究
a. 茨城労働局と連携した「労働災害認定業務(年間20件程度×15年間継続中)」
b. 筑波大学本部・安全衛生委員会と連携した、労働衛生管理システムの構築
c. 茨城県医師会と連携した、産業医の育成と生涯教育・「高度職業人養成」の実施
d. 中央労働災害防止協会と連携した、「CSRによる労働衛生推進モデル研究」の実施
e. JAXA,NASA,RSAと連携した、「長期宇宙滞在中の健康管理システム」の開発
f. 民間会社と連携したうつ病予防にむけた日常的コンピューター操作の変化と 心身の健康に関する研究 の実施
g. 自治体と連携したメンタルヘルス疾患 予防プログラム開発事業 の実施
以上の三領域にわたり広く研究を推進してきており、現在特に領域3、つまり研究成果の組織・地域への還元と運用支援、高度職業人(産業医・産業保健師)の養成に関して、集中した研究活動を展開しています。つまり、総合的な「環境保健学」的研究から、より実務的な「産業医学」的研究と運用に力点をおいて教育・研究・運用を進めています。
当研究グループ単体で上記1.,2.,3.全てを遂行するには困難がありますので、1.に関しては、大分県立看護科学大学の影山教授、日本福祉大学の山崎教授、岡山県立大学の坂野准教授、放送大学の戸ケ里准教授、ノルウェーのベルゲン大学ランゲランド准教授、スウェーデン農業科学大学のグラーン教授、本学総合診療グループの前野教授と連携しております。2.に関しては、金沢大学の中村教授、本学国際睡眠研究機構の柳沢教授、本学環境医学グループの熊谷教授と連携しております。3.に関しては、大学本部・病院、筑波研究学園都市連絡協議会などをフィールドにして還元しております。
平成27年1月 松崎一葉